ファクタリングの種類 リコースあり vs リコースなし

ファクタリングの種類 リコースあり vs リコースなし

リコースありファクタリング(回収不能リスクが企業に残る)とリコースなしファクタリング(リスクがファクタリング会社に移転)の違いを詳しく比較・解説します。

ファクタリングの種類 リコースあり vs リコースなし

ファクタリングの種類 
リコースあり vs リコースな

リコースありファクタリングとリコースなしファクタリングの違いを徹底比較

 

ファクタリングを検討する際、必ず直面するのが「リコースあり」と「リコースなし」という選択です。この2つは単なる契約形態の違いではなく、リスクの所在、コスト、利用条件など、あらゆる面で大きく異なります。

 

どちらを選ぶかによって、売掛先が倒産した場合の対応、支払う手数料の額、審査の通りやすさが根本的に変わります。この選択を誤ると、想定外のリスクを負うことになったり、不必要に高いコストを支払うことになったりします。

 

本記事では、リコースありファクタリングとリコースなしファクタリングの特徴、メリット・デメリット、そして自社に適した選択をするための判断基準を詳しく解説します。

 

リコースありファクタリング(償還請求権付きファクタリング)とは

 

リコースありファクタリングの基本的な仕組み

 

リコースありファクタリングとは、企業がファクタリング会社に売掛金を売却した後でも、売掛先(取引先)が支払いをしなかった場合、その回収不能リスクが利用企業に残る形態です。

 

「リコース(recourse)」とは「償還請求権」を意味します。つまり、売掛先からの入金がなかった場合、ファクタリング会社は利用企業に対して「買い戻し」を請求できる権利を持っています。

 

具体的には、売掛先が倒産したり、支払い能力を失ったりした場合、ファクタリング会社はすでに支払った買取代金の返還を利用企業に求めることができます。この場合、利用企業は別の資金で返済するか、他の売掛金で相殺するかといった対応が必要になります。

 

リコースありファクタリングの特徴

 

リスクの所在

最大の特徴は、最終的な回収リスクが利用企業に残るという点です。ファクタリング会社に売掛金を売却しても、売掛先からの入金が得られなければ、利用企業がその損失を負担することになります。

 

手数料の水準

ファクタリング会社がリスクを負わない分、手数料は比較的低く設定されます。一般的に、2社間ファクタリングで5〜15%程度、3社間ファクタリングで1〜5%程度が相場です。リコースなしと比較すると、3〜5%程度低い水準となることが多いです。

 

審査の厳しさ

売掛先の信用審査は行われますが、リコースなしファクタリングほど厳格ではありません。なぜなら、最終的なリスクは利用企業が負うため、ファクタリング会社の審査基準はやや緩やかになる傾向があるからです。

 

利用対象

信用力の高い取引先を持つ企業、売掛金の回収に自信がある企業、あるいは手数料を抑えたい企業に適しています。

 

リコースありファクタリングのメリット

 

1. 低コストでの資金調達が可能

最大のメリットは手数料の安さです。同じ売掛金額、同じ売掛先であっても、リコースなしと比べて数パーセント手数料が低くなります。例えば、1,000万円の売掛金であれば、手数料の差は30万円〜50万円にもなります。

 

2. 審査が通りやすく、迅速な資金調達が可能

審査基準が比較的緩やかなため、売掛先の信用力がやや低い場合でも利用できる可能性があります。また、審査が簡略化される分、資金化までのスピードも早くなる傾向があります。

 

3. 契約条件の柔軟性

ファクタリング会社のリスクが限定的であるため、利用金額や利用頻度などの契約条件が柔軟に設定されやすいという特徴があります。

 

リコースありファクタリングのデメリット

 

1. 最終的な回収リスクが残る

最大のデメリットは、売掛先が倒産した場合などに、損失を被る可能性があるという点です。ファクタリングで早期に資金を得たとしても、後から返済義務が発生すれば、資金繰りはむしろ悪化します。

 

2. キャッシュフロー管理の複雑化

売掛先の支払い遅延や倒産リスクを常に意識する必要があり、キャッシュフロー管理が複雑になります。特に、複数の売掛先についてリコースありファクタリングを利用している場合、リスク管理の負担が大きくなります。

 

3. 実質的には「担保付き融資」に近い性質

回収不能時に返済義務が発生するため、法的にはファクタリング(債権譲渡)であっても、実質的には売掛金を担保とした融資に近い性質を持ちます。この点を理解せずに利用すると、想定外の返済負担に直面する可能性があります。

 

リコースなしファクタリング(非償還請求権ファクタリング)とは

 

リコースなしファクタリングの基本的な仕組み

 

リコースなしファクタリングでは、売掛金の回収不能リスクが完全にファクタリング会社に移転されます。売掛先が支払いを行わなかった場合でも、ファクタリング会社がそのリスクを負担し、利用企業は売掛金の回収を心配する必要がありません。

 

これは真の意味での「債権譲渡」であり、売掛金の所有権とそれに伴うリスクがすべてファクタリング会社に移ります。売掛先が倒産しても、利用企業に返済義務は発生しません。

 

リコースなしファクタリングの特徴

 

リスクの所在

売掛金の回収リスクが完全にファクタリング会社に移転されるため、利用企業はリスクを負いません。これは、リスク管理の観点から非常に重要な特徴です。

 

手数料の水準

ファクタリング会社がリスクを負う分、手数料はリコースありよりも高く設定されます。一般的に、2社間ファクタリングで10〜30%程度、3社間ファクタリングで3〜9%程度が相場です。

 

審査の厳しさ

ファクタリング会社が全リスクを負うため、売掛先の信用審査が非常に厳格に行われます。売掛先の財務状況、業歴、過去の支払い実績などが詳細に調査され、信用力が低いと判断されれば利用を断られることもあります。

 

利用対象

売掛先の信用力にやや不安がある場合、あるいはリスク回避を最優先する企業に適しています。また、海外取引など回収リスクの高い取引での利用も効果的です。

 

リコースなしファクタリングのメリット

 

1. 完全なリスク回避が可能

最大のメリットは、売掛金の回収リスクを完全に回避できる点です。売掛先が倒産しても、返済義務は一切発生しません。これは、信用保険と資金調達を同時に実現する効果があります。

 

2. キャッシュフローの安定化

売掛先の支払い状況に関わらず、ファクタリング実行時に確定した金額が受け取れるため、キャッシュフローの予測が立てやすくなります。経営計画や資金繰り計画を立てる上で、この安定性は大きなメリットです。

 

3. 保険機能としての活用

単なる資金調達手段ではなく、売掛金の回収リスクに対する保険としての機能を持ちます。特に、新規取引先や信用力に不安がある取引先との取引において、リスクヘッジの手段として有効です。

 

4. 貸借対照表のオフバランス化

真の債権譲渡であるため、会計上は売掛金が消滅し、代わりに現金が計上されます。これにより、貸借対照表をスリム化し、財務指標を改善する効果があります。

 

リコースなしファクタリングのデメリット

 

1. 高コストでの資金調達

手数料が高いため、資金調達コストが増加します。頻繁に利用すると、手数料負担が利益を圧迫する可能性があります。

 

2. 厳しい信用審査による利用の難しさ

売掛先の信用力が低い場合、ファクタリング自体の利用が難しくなることがあります。また、審査に時間がかかるため、緊急の資金需要には対応できないこともあります。

 

3. 契約条件の厳格さ

ファクタリング会社のリスクが大きいため、契約条件が厳しく設定されることがあります。利用できる債権の種類や金額、売掛先の条件などに制約が設けられる場合があります。

 

4. 一部のリスクは免責されない場合がある

注意すべき点として、「リコースなし」といっても、すべてのリスクが免責されるわけではありません。売掛金の存在自体に問題があった場合(架空債権、二重譲渡など)や、利用企業の契約違反があった場合は、利用企業が責任を負うことになります。

 

リコースありとリコースなしの詳細比較

 

比較項目 リコースあり リコースなし
回収リスクの所在 利用企業に残る ファクタリング会社に移転
手数料水準(2社間) 5〜15%程度 10〜30%程度
手数料水準(3社間) 1〜5%程度 3〜9%程度
売掛先の審査 比較的緩やか 非常に厳格
審査スピード 比較的早い やや時間がかかる
キャッシュフロー 回収リスクあり 完全に安定
適用企業 売掛先の信用力が高い企業 リスク回避を重視する企業
契約条件 比較的柔軟 やや厳格
会計処理 実質的には担保付き融資に近い 真の債権譲渡
売掛先倒産時 利用企業が損失を負担 ファクタリング会社が損失を負担

 

日本と海外におけるリコースあり・なしの利用状況

 

日本市場の特徴

 

日本では、リコースありファクタリングが主流です。これは、日本の商習慣として、取引先との長期的な信頼関係を重視する傾向があること、手数料を抑えたいというニーズが強いことなどが背景にあります。

 

ただし、近年はリスク管理の重要性が認識されるようになり、リコースなしファクタリングの利用も徐々に増加しています。特に、海外取引や新規取引先との取引においては、リコースなしを選択する企業が増えています。

 

欧米市場の特徴

 

欧米、特にアメリカでは、リコースなしファクタリングが一般的です。これは、リスクを明確に分離し、専門機関に移転するという考え方が浸透していることが理由です。

 

ヨーロッパでは国によって傾向が異なり、イタリアやスペインではリコースあり、イギリスやフランスではリコースなしが比較的多く利用されています。

 

どちらを選ぶべきか?状況別の判断基準

 

リコースありファクタリングを選ぶべきケース

 

1. 売掛先の信用力が高く、倒産リスクが低い場合

大手企業や公共機関など、信用力の高い売掛先であれば、回収リスクは極めて低いため、リコースありを選択して手数料を抑えることが合理的です。

 

2. 資金調達コストを最優先する場合

手数料の差は大きく、特に利用額が大きい場合や頻繁に利用する場合は、コスト面でのメリットが重要になります。

 

3. 長期的な取引関係がある売掛先の場合

過去の取引実績から支払い能力や支払い態度が把握できている売掛先であれば、リスクを予測しやすく、リコースありでも問題ありません。

 

リコースなしファクタリングを選ぶべきケース

 

1. 売掛先の信用力に不安がある場合

新規取引先、財務状況が不透明な企業、経営が不安定な業種の企業など、回収リスクが高い売掛先については、リコースなしでリスクを移転すべきです。

 

2. 高額の売掛金を現金化する場合

売掛金額が大きい場合、万が一の回収不能時の損失も大きくなります。高額案件については、手数料が高くてもリスク回避を優先すべきです。

 

3. 海外取引や初めての取引先の場合

海外企業や初めて取引する相手は、信用調査が難しく、リスクの予測も困難です。こうしたケースでは、リコースなしが安全です。

 

4. 資金繰りに余裕がなく、返済リスクを負えない場合

すでに資金繰りが厳しい状況で、さらに返済リスクを負うことは危険です。手数料が高くても、確実に資金を確保できるリコースなしを選ぶべきです。

 

契約前に必ず確認すべき重要ポイント

 

リコースの範囲と条件

 

「リコースなし」と謳っていても、すべてのリスクが免責されるわけではありません。どのような場合にリコースが発生するのか、契約書で必ず確認してください。

 

特に、売掛金の存在に関する保証、売掛先の倒産以外の理由(支払い拒否など)での未回収、契約違反時の取り扱いなどは要注意ポイントです。

 

手数料の内訳

 

「リコースあり5%」と提示されていても、事務手数料や審査料などが別途かかる場合があります。最終的な受取額を明確にし、実質的な手数料率を把握してください。

 

審査基準と審査期間

 

特にリコースなしの場合、審査が厳格で時間がかかります。緊急の資金需要に対応できるか、事前に確認しておくことが重要です。

 

自社の状況に応じた適切な選択を

 

リコースありファクタリングとリコースなしファクタリングは、リスクとコストのトレードオフの関係にあります。どちらが優れているということはなく、自社の状況、売掛先の信用力、資金調達の目的によって適切な選択が変わります。

 

リスクを負ってでもコストを抑えたい企業、信用力の高い売掛先を持つ企業にはリコースありが適しています。一方、リスク回避を最優先する企業、売掛先の信用力に不安がある企業にはリコースなしが適しています。

 

重要なのは、「リコースの有無」だけでなく、手数料、審査基準、契約条件、そして自社の資金繰り状況を総合的に判断することです。安易に手数料の安さだけで選ぶと、後から想定外のリスクに直面する可能性があります。

 

複数のファクタリング会社から見積もりを取り、リコースあり・なし両方の条件を比較した上で、最も自社に適した選択を行うことが、後悔しないファクタリング利用の第一歩となります。