


企業が資金調達を検討する際、最も一般的な選択肢は銀行融資です。しかし、審査に時間がかかる、自社の信用力が低くて審査が通らない、といった理由で銀行融資が利用できない場面も少なくありません。
そうした状況で注目されるのがファクタリングです。しかし、「ファクタリングと銀行融資、どちらを選ぶべきか」という問いに対する答えは、企業の状況や資金ニーズによって大きく異なります。
手数料の差、審査基準の違い、資金化までのスピード、貸借対照表への影響。これらすべてを理解せずに選択すると、後から「こんなはずではなかった」と後悔することになりかねません。
本記事では、ファクタリングと銀行融資を多角的に比較し、それぞれの特徴、メリット・デメリット、そしてどのような企業にどちらが適しているのかを、資金調達のプロの視点から詳しく解説します。
ファクタリングは、企業が保有する売掛金(売掛債権)をファクタリング会社に売却し、入金期日前に現金化する資金調達方法です。融資ではなく債権の売買取引であるため、借入金として扱われません。
例えば、60日後に入金予定の500万円の売掛金がある場合、ファクタリングを利用すれば、手数料を差し引いた金額(手数料15%なら425万円)を即日〜数日で受け取ることができます。
ファクタリングの最大の強みは、資金調達の速さです。最短で即日、通常でも2〜3日程度で資金化が可能です。必要書類も銀行融資と比べて少なく、申込みから審査、契約、入金までのプロセスが非常にスピーディーです。
これは以下のような緊急の資金需要に対応できることを意味します。
銀行融資では利用企業自身の信用力が審査の中心となりますが、ファクタリングでは主に売掛先(取引先)の信用力が重視されます。
これにより、以下のような状況の企業でも資金調達が可能になります。
売掛先が上場企業や大手企業、公的機関であれば、自社の決算内容に関わらず、比較的有利な条件でファクタリングを利用できる可能性が高まります。
ファクタリングは売掛金という既に発生している債権を対象とするため、不動産や設備などの担保、あるいは代表者以外の保証人を用意する必要がありません。
担保となる資産を持たない企業、あるいは既存の借入で担保余力がない企業にとって、この点は大きなメリットとなります。
ファクタリングは融資ではなく債権の売買取引であるため、貸借対照表上は「売掛金の減少」と「現金の増加」として処理されます。負債として計上されないため、以下のような財務指標への影響を避けられます。
ファクタリングの最大のデメリットは、手数料の高さです。2社間ファクタリングで10%〜30%、3社間ファクタリングで1%〜9%程度の手数料がかかります。
これを年利換算すると、非常に高い金利に相当します。例えば、60日サイトの売掛金を手数料15%で現金化した場合、年利換算では約90%にもなります。銀行融資の年利1%〜3%と比較すると、その差は歴然です。
3社間ファクタリングでは、売掛先に債権譲渡の通知を行うため、ファクタリング利用の事実が必ず知られます。「資金繰りが厳しいのでは」と疑われたり、今後の取引に影響が出たりする可能性があります。
2社間ファクタリングであれば原則として売掛先に知られませんが、契約違反や支払い遅延があった場合には通知される可能性もあります。
ファクタリングは売掛金を前払いで受け取る仕組みです。今月の売掛金を今月中に現金化すれば、来月の資金繰りは必然的に厳しくなります。そのため、継続利用に陥りやすく、手数料負担が恒常化するリスクがあります。
すべての売掛金がファクタリングの対象となるわけではありません。売掛先の信用力が低い、支払いサイトが長すぎる、債権額が小さすぎるといった理由で、利用を断られることもあります。
銀行融資は、金融機関から資金を借り入れ、一定期間後に利息を付けて返済する資金調達方法です。企業の資金調達における最も基本的で、最も一般的な手段です。
融資には、短期融資(1年以内)、長期融資(1年以上)、証書貸付、手形貸付、当座貸越など、様々な形態があります。
銀行融資の最大のメリットは、金利の低さです。一般的に年利1%〜3%程度で資金を調達できます。信用力の高い企業であれば、1%以下の金利で借りられることもあります。
例えば、1,000万円を年利2%で1年間借りた場合、利息は20万円です。一方、ファクタリングで同額を手数料15%で現金化した場合、手数料は150万円にもなります。この差は非常に大きく、特に長期的・継続的に利用する場合、コスト差は企業の利益に大きく影響します。
銀行融資は、数年から十数年にわたる長期の資金調達に適しています。設備投資、店舗拡大、事業買収など、大規模な投資を伴う資金需要に対応できます。
返済期間が長いため、月々の返済負担も分散でき、キャッシュフローへの影響を最小限に抑えられます。
銀行融資を受け、確実に返済していくことで、企業の信用力が向上します。返済実績は信用情報として蓄積され、将来的な融資や他の金融取引において有利に働きます。
また、銀行との関係を構築することで、経営相談、ビジネスマッチング、専門家紹介など、資金調達以外のサポートも受けられる可能性があります。
銀行融資は企業と金融機関との間の取引であり、取引先や顧客に知られることはありません。資金調達の事実が外部に漏れないため、企業の評判や取引関係に影響を与えるリスクがありません。
銀行融資を受けるためには、企業の信用力、財務状況、事業計画、代表者の個人信用情報などが厳しく審査されます。以下のような状況の企業は、審査に通りにくくなります。
銀行融資の審査には、最低でも2週間、通常は1ヶ月程度の時間がかかります。書類の準備、面談、審査、稟議、契約手続きと、多くのステップを踏む必要があります。
急な資金需要、緊急の支払いには対応できないことが多く、この点がファクタリングとの最大の違いとなります。
銀行は融資に対して担保を要求することが多くあります。不動産、設備、在庫、売掛金などが担保の対象となります。また、代表者以外の連帯保証人を求められることもあります。
担保となる資産を持たない企業、あるいは既存の借入で担保余力がない企業にとって、この要件は大きなハードルとなります。
融資は借入金であるため、業績に関わらず毎月決まった金額を返済する義務があります。売上が減少しても、赤字になっても、返済は続けなければなりません。
この固定的な支出が、資金繰りをさらに圧迫することもあります。
| 比較項目 | ファクタリング | 銀行融資 |
|---|---|---|
| 資金調達スピード | 即日〜3日程度 | 2週間〜1ヶ月程度 |
| 審査対象 | 売掛先の信用力 | 利用企業の信用力 |
| コスト | 10%〜30%(2社間) 1%〜9%(3社間) |
年利1%〜3%程度 |
| 担保・保証人 | 不要(売掛金が対象) | 必要な場合が多い |
| 決算が赤字の場合 | 利用可能 | 審査が厳しい |
| 創業間もない企業 | 利用しやすい | 実績不足で困難 |
| 貸借対照表への影響 | 負債にならない | 負債として計上 |
| 返済義務 | なし(債権売買) | あり(毎月返済) |
| 利用できる金額 | 売掛金の範囲内 | 審査による(大きい) |
| 資金用途 | 短期運転資金向き | 長期投資にも対応 |
| 取引先への影響 | 3社間では知られる | 知られない |
| 必要書類 | 比較的少ない | 多い |
ファクタリングと銀行融資は、必ずしも「どちらか一方」を選ぶ必要はありません。両方を状況に応じて使い分ける、あるいは併用することで、それぞれの弱点を補完できます。
通常の資金需要は低コストの銀行融資でまかない、突発的な資金需要や融資実行までのつなぎ資金としてファクタリングを利用する方法です。コストを抑えつつ、柔軟性も確保できます。
創業間もない企業が、まずファクタリングで事業を軌道に乗せ、実績を積んだ後に銀行融資に切り替える方法です。段階的に資金調達コストを下げていくアプローチです。
短期運転資金はファクタリング、設備投資は銀行融資というように、資金の用途によって使い分ける方法です。それぞれの強みを最大限に活かせます。
ファクタリングと銀行融資は、それぞれに明確な強みと弱みがあります。どちらが優れているということはなく、企業の状況、資金需要の性質、時間的制約、許容できるコストによって、最適な選択は変わります。
ファクタリングを選ぶべき企業:
銀行融資を選ぶべき企業:
重要なのは、一つの方法に固執せず、状況に応じて最適な手段を選択することです。また、両方を併用することで、それぞれの弱点を補完し、より柔軟で効率的な資金調達体制を構築できます。
自社の財務状況、資金需要の性質、時間的制約を冷静に分析し、それぞれの特徴を理解した上で、最も適した資金調達方法を選択してください。
※本記事の内容は、「ファクタリング naviドットコムのファクタリング比較ポリシー」に基づいています。