ファクタリングを利用する企業のメリットとデメリット

ファクタリングを利用する企業のメリットとデメリット

ファクタリングの利用が企業に与える影響、特にキャッシュフローの改善効果や、デメリット(手数料や顧客との関係への影響)について解説します。

ファクタリングを利用する企業のメリットとデメリット

ファクタリングのメリット・デメリットを徹底解説|キャッシュフロー改善と潜在的リスク

 

ファクタリングは、売掛金を早期に現金化できる資金調達手段として、多くの企業に利用されています。しかし、「資金がすぐに手に入る」というメリットだけに注目して利用を決めると、後から想定外のデメリットに直面する可能性があります。

 

ファクタリングには確かに大きなメリットがありますが、同時に見過ごせないデメリットも存在します。手数料の負担、取引先との関係への影響、継続利用による依存のリスク。これらを理解せずに利用すると、一時的に資金繰りを改善しても、中長期的には経営を圧迫する要因となりかねません。

 

本記事では、ファクタリングのメリットとデメリットを客観的に解説し、どのような企業に適しているのか、利用する際に注意すべきポイントは何かを、資金調達のプロの視点から詳しくお伝えします。

 

ファクタリングの5つの主要なメリット

 

メリット1:キャッシュフローの劇的な改善

 

即時資金調達による資金繰りの安定化

ファクタリングの最大のメリットは、売掛金の支払いを待つことなく、最短即日で現金を手に入れることができる点です。通常、売掛金は30日〜90日後に入金されますが、この期間を待たずに資金化できます。

 

例えば、60日サイトの売掛金が500万円ある場合、通常なら2ヶ月後まで現金が入りません。しかし、ファクタリングを利用すれば、手数料を差し引いた金額(手数料15%なら425万円)を即日から数日で受け取ることができます。

 

この即時性は、以下のような場面で極めて重要です。

 

  • 従業員への給与支払い:月末の給与支払いに間に合わせる必要がある
  • 仕入れ代金の支払い:急な大口受注に対応するための材料・商品の仕入れ
  • 税金・社会保険料の納付:納付期限が迫っている場合
  • 外注費の支払い:協力業者への支払いを遅らせられない場合

 

キャッシュフローの予測可能性向上

ファクタリングを計画的に利用することで、売掛金の入金サイクルを短縮し、キャッシュフローの予測可能性を高めることができます。

 

特に、季節変動が大きい業種(建設業、小売業、イベント業など)では、繁忙期と閑散期で売上と入金のタイミングが大きくずれることがあります。ファクタリングを活用することで、このギャップを埋め、年間を通じて安定した資金繰りを実現できます。

 

メリット2:企業の信用力に依存しない柔軟な資金調達

 

審査対象は売掛先の信用力

銀行融資やビジネスローンでは、融資を受ける企業自身の信用力が審査の中心となります。決算書が赤字、債務超過、創業間もないといった状況では、融資を受けることが非常に困難です。

 

しかし、ファクタリングでは主に売掛先(取引先)の信用力が重視されます。自社の決算内容が悪くても、売掛先が信用力の高い企業(上場企業、大手企業、公的機関など)であれば、ファクタリングを利用できる可能性が高いのです。

 

これは以下のような企業にとって大きなメリットとなります。

 

  • 創業1年未満のスタートアップ企業
  • 前期決算が赤字だった企業
  • 債務超過に陥っている企業
  • 既存の借入金が多く、追加融資が難しい企業

 

資産を担保に取られない

銀行融資では、不動産、設備、在庫などの資産を担保として提供する必要があることがあります。しかし、ファクタリングは売掛金という「すでに発生している債権」を対象とするため、その他の資産を担保に取られることはありません。

 

これにより、企業は自社の重要な資産を保全しながら資金調達ができます。特に、不動産などの担保となる資産を持たない企業にとって、この点は大きなメリットです。

 

メリット3:貸借対照表への影響を抑えられる

 

負債として計上されない

ファクタリングは債権の売買取引であり、融資ではありません。そのため、貸借対照表上は「売掛金の減少」と「現金の増加」として処理され、負債として計上されることはありません。

 

これは財務指標に以下のような好影響をもたらします。

 

  • 自己資本比率の維持:負債が増えないため、自己資本比率が悪化しない
  • 負債比率の改善:総資産が減少するため、負債比率が改善される場合もある
  • 今後の融資審査への影響を最小化:借入金として認識されないため、融資審査での評価に与える影響が少ない

 

上場準備中の企業や、金融機関との関係を重視する企業にとって、この点は非常に重要です。

 

メリット4:債権管理業務の効率化

 

債権管理の外部委託による業務負担軽減

3社間ファクタリングを利用する場合、売掛金の管理や回収業務をファクタリング会社に委託できます。これにより、以下のような業務負担が軽減されます。

 

  • 入金予定日の管理
  • 入金確認作業
  • 支払い遅延時の督促
  • 消込作業
  • 債権台帳の管理

 

特に、多数の取引先を抱える企業や、経理担当者が少ない中小企業にとって、この業務負担軽減効果は大きなメリットとなります。

 

信用リスクの移転(リコースなしの場合)

リコースなしファクタリングを利用すれば、売掛先の倒産リスクをファクタリング会社に移転できます。売掛先が倒産して代金を回収できなくなっても、利用企業に返済義務は発生しません。

 

これは実質的に、資金調達と信用保険を同時に実現する効果があります。特に、新規取引先や信用力に不安がある取引先との取引において、リスクヘッジの手段として有効です。

 

メリット5:迅速な資金調達による機会損失の回避

 

ビジネスチャンスを逃さない

ビジネスの世界では、タイミングを逃すと二度と同じチャンスは訪れないことがあります。大口の受注機会、有利な条件での仕入れ、競合他社を出し抜く投資機会。これらはすべて、資金があるかどうかで実現可否が決まります。

 

ファクタリングの迅速性は、こうしたビジネスチャンスを逃さないための強力な武器となります。銀行融資では間に合わない場面でも、ファクタリングなら数日以内に資金を確保し、チャンスをものにすることができます。

 

ファクタリングの6つの主要なデメリット

 

デメリット1:高額な手数料負担

 

他の資金調達方法と比較して高コスト

ファクタリングの最大のデメリットは、手数料の高さです。2社間ファクタリングでは10%〜30%、3社間ファクタリングでも1%〜9%程度の手数料がかかります。

 

これを年利換算すると、非常に高い金利に相当します。例えば、60日サイトの売掛金を手数料15%で現金化した場合、年利換算では約90%にもなります。銀行融資の年利1%〜3%と比較すると、その高さは明らかです。

 

継続的に利用すれば、この手数料負担が利益を大きく圧迫します。年間売上3,000万円の企業が、毎月売掛金の半分をファクタリングで現金化した場合(月125万円×手数料15%)、年間の手数料負担は約225万円にもなります。

 

隠れたコストにも注意

表面的な手数料以外にも、以下のようなコストが発生する可能性があります。

 

  • 信用調査費用:1社あたり5,000円〜30,000円
  • 事務手数料:契約ごとに数千円〜数万円
  • 振込手数料:数百円〜数千円
  • 管理費用:月額数千円〜数万円
  • 延滞発生時の追加費用

 

これらを合計すると、実質的な手数料率は表示より2%〜5%程度高くなることもあります。

 

デメリット2:取引先との関係への潜在的影響

 

3社間ファクタリングでは確実に知られる

3社間ファクタリングでは、売掛先に債権譲渡の通知を行うため、ファクタリング利用の事実が必ず知られます。これにより、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

 

  • 資金繰り悪化の懸念:「あの会社は資金繰りが厳しいのでは」と疑われる
  • 信用不安:今後の取引継続に不安を持たれる
  • 取引条件の見直し:前払い条件を求められたり、取引額を減らされたりする
  • 競合他社への情報流出:業界内で噂が広まる可能性

 

2社間でも完全に隠せるわけではない

2社間ファクタリングは原則として売掛先に知られませんが、以下の場合には通知される可能性があります。

 

  • 利用企業がファクタリング会社への支払いを怠った場合
  • 契約違反があった場合
  • 売掛先から問い合わせがあった場合

 

契約書の「債権譲渡通知の条件」を必ず確認し、どのような場合に通知されるのかを把握しておく必要があります。

 

デメリット3:ファクタリングへの依存リスク

 

「ファクタリング依存症」の危険性

ファクタリングを一度利用すると、その便利さから継続利用してしまいがちです。しかし、これには大きな落とし穴があります。

 

ファクタリングは売掛金を前払いで受け取る仕組みです。今月の売掛金を今月中に現金化すれば、来月の資金繰りは必然的に厳しくなります。そのため、来月もファクタリングを利用することになり、これが繰り返されることで、ファクタリングなしでは資金繰りが回らない状態に陥ります。

 

この状態を「ファクタリング依存症」と呼びます。一度この状態になると、抜け出すことが非常に困難になります。

 

恒常的なコスト負担による利益圧迫

ファクタリング手数料が恒常的なコストとして固定化されると、利益率が大幅に低下します。

 

例えば、営業利益率10%の企業が、売上の50%を手数料15%でファクタリングした場合、売上に対して7.5%の手数料負担が発生します。これにより、実質的な営業利益率は2.5%にまで低下してしまいます。

 

デメリット4:契約条件による制約と縛り

 

最低利用期間・最低利用回数の縛り

多くのファクタリング契約には、以下のような制約が設けられています。

 

  • 最低利用期間:6ヶ月〜1年
  • 最低利用回数:月1回以上など
  • 最低利用金額:月○○万円以上

 

これらの条件により、「1回だけ利用するつもりだった」のに、長期間の利用を強いられることになります。途中解約には高額な違約金が発生することもあります。

 

対象となる債権の制限

すべての売掛金がファクタリングの対象となるわけではありません。以下のような制約がある場合が多いです。

 

  • 売掛先の信用力が一定基準以上であること
  • 債権額が一定金額以上であること
  • 支払いサイトが一定期間以内であること
  • 過去に支払い遅延がないこと

 

デメリット5:長期的な財務計画への適合性の低さ

 

根本的な資金繰り改善にはならない

ファクタリングは、売掛金の入金タイミングを早めるだけであり、売上や利益を増やすわけではありません。むしろ、手数料分だけキャッシュは減少します。

 

資金繰りの問題が構造的なもの(支出管理の甘さ、収益性の低さ、過剰投資など)である場合、ファクタリングは一時的な対症療法にすぎず、根本的な解決にはなりません。

 

成長投資への資金を圧迫

手数料負担が大きいため、本来は設備投資や人材採用、マーケティングなどの成長投資に回すべき資金が、ファクタリング手数料に消えてしまうことになります。

 

これは中長期的な企業成長を阻害する要因となります。

 

デメリット6:悪質業者による被害リスク

 

違法業者・悪質業者の存在

ファクタリング業界には、残念ながら悪質な業者も存在します。以下のような手口に注意が必要です。

 

  • 法外な手数料:40%〜50%といった異常に高い手数料
  • 実質的な貸金業:ファクタリングを装った高金利貸付
  • 強引な回収:脅迫的な取立て行為
  • 契約書の不備:一方的に不利な契約条件

 

こうした業者と契約してしまうと、金銭的な被害だけでなく、事業継続そのものが危ぶまれる事態に陥る可能性があります。

 

メリット・デメリットの比較表

 

項目 メリット デメリット
資金調達速度 最短即日、通常2〜3日で資金化 審査で断られる可能性もある
審査基準 売掛先の信用力が中心
自社の決算が悪くても利用可能
売掛先の信用力が低いと利用不可
または高い手数料
コスト 担保不要、審査手数料が比較的安い 手数料が非常に高い(10%〜30%)
継続利用で利益を圧迫
財務への影響 負債として計上されない
自己資本比率を維持
根本的な利益改善にはならない
手数料分だけキャッシュが減少
取引先との関係 2社間なら原則知られない 3社間では必ず知られる
信用不安を与える可能性
業務負担 債権管理業務を委託できる(3社間) 契約手続きや書類準備の手間
継続利用で事務負担増加
柔軟性 必要な時だけ利用できる 最低利用期間の縛りがある場合も
依存状態になりやすい

 

ファクタリングが適している企業・適していない企業

 

ファクタリングが特に有効な企業

 

  • 緊急の資金需要がある企業:明日の支払いに間に合わせる必要があるなど、時間的余裕がない
  • 銀行融資が受けられない企業:創業間もない、赤字決算、債務超過などの理由で融資審査が通らない
  • 一時的な資金需要がある企業:季節変動、大口受注への対応など、短期的な資金需要
  • 信用力の高い取引先を持つ企業:大手企業や公的機関が売掛先であれば、低い手数料で利用できる
  • 負債を増やしたくない企業:財務指標を維持したい、上場準備中など

 

ファクタリングが適さない企業

 

  • 長期的な資金需要がある企業:設備投資など、長期資金は銀行融資が適切
  • 利益率が低い企業:高い手数料負担に耐えられない
  • 銀行融資が受けられる企業:低金利の融資が利用できるなら、そちらを優先すべき
  • 取引先が少ない企業:ファクタリングできる債権の選択肢が限られる
  • 売掛金の信用力が低い企業:手数料が高額になる、または利用不可

 

メリット・デメリットを理解した戦略的活用を

 

ファクタリングは、短期的な資金調達手段としては非常に有効ですが、万能ではありません。高い手数料、取引先との関係への影響、依存リスクといったデメリットも確実に存在します。

 

重要なのは、これらのメリット・デメリットを正確に理解した上で、自社の状況に照らして適切に判断することです。

 

ファクタリングを賢く活用するための5つの原則:

 

  1. 緊急時の手段として位置づける:常用せず、本当に必要な時だけ利用する
  2. 手数料を総合的に比較する:複数社から見積もりを取り、隠れた費用も含めて比較する
  3. 依存しない仕組みを作る:根本的な資金繰り改善策を並行して進める
  4. 契約内容を徹底確認する:最低利用期間、解約条件、追加費用などを事前に把握する
  5. 他の資金調達方法と併用する:銀行融資など、より低コストな方法も並行して検討する

 

ファクタリングは、正しく理解し、適切に利用すれば、企業の資金繰りを改善する強力なツールとなります。しかし、安易に飛びつけば、かえって経営を圧迫する要因となりかねません。

 

メリットとデメリットの両面を冷静に評価し、自社にとって本当に必要かどうかを慎重に判断してください。