


ファクタリングは、売掛金を早期に現金化できる資金調達手段として、多くの企業に利用されています。しかし、「資金がすぐに手に入る」というメリットだけに注目して利用を決めると、後から想定外のデメリットに直面する可能性があります。
ファクタリングには確かに大きなメリットがありますが、同時に見過ごせないデメリットも存在します。手数料の負担、取引先との関係への影響、継続利用による依存のリスク。これらを理解せずに利用すると、一時的に資金繰りを改善しても、中長期的には経営を圧迫する要因となりかねません。
本記事では、ファクタリングのメリットとデメリットを客観的に解説し、どのような企業に適しているのか、利用する際に注意すべきポイントは何かを、資金調達のプロの視点から詳しくお伝えします。
ファクタリングの最大のメリットは、売掛金の支払いを待つことなく、最短即日で現金を手に入れることができる点です。通常、売掛金は30日〜90日後に入金されますが、この期間を待たずに資金化できます。
例えば、60日サイトの売掛金が500万円ある場合、通常なら2ヶ月後まで現金が入りません。しかし、ファクタリングを利用すれば、手数料を差し引いた金額(手数料15%なら425万円)を即日から数日で受け取ることができます。
この即時性は、以下のような場面で極めて重要です。
ファクタリングを計画的に利用することで、売掛金の入金サイクルを短縮し、キャッシュフローの予測可能性を高めることができます。
特に、季節変動が大きい業種(建設業、小売業、イベント業など)では、繁忙期と閑散期で売上と入金のタイミングが大きくずれることがあります。ファクタリングを活用することで、このギャップを埋め、年間を通じて安定した資金繰りを実現できます。
銀行融資やビジネスローンでは、融資を受ける企業自身の信用力が審査の中心となります。決算書が赤字、債務超過、創業間もないといった状況では、融資を受けることが非常に困難です。
しかし、ファクタリングでは主に売掛先(取引先)の信用力が重視されます。自社の決算内容が悪くても、売掛先が信用力の高い企業(上場企業、大手企業、公的機関など)であれば、ファクタリングを利用できる可能性が高いのです。
これは以下のような企業にとって大きなメリットとなります。
銀行融資では、不動産、設備、在庫などの資産を担保として提供する必要があることがあります。しかし、ファクタリングは売掛金という「すでに発生している債権」を対象とするため、その他の資産を担保に取られることはありません。
これにより、企業は自社の重要な資産を保全しながら資金調達ができます。特に、不動産などの担保となる資産を持たない企業にとって、この点は大きなメリットです。
ファクタリングは債権の売買取引であり、融資ではありません。そのため、貸借対照表上は「売掛金の減少」と「現金の増加」として処理され、負債として計上されることはありません。
これは財務指標に以下のような好影響をもたらします。
上場準備中の企業や、金融機関との関係を重視する企業にとって、この点は非常に重要です。
3社間ファクタリングを利用する場合、売掛金の管理や回収業務をファクタリング会社に委託できます。これにより、以下のような業務負担が軽減されます。
特に、多数の取引先を抱える企業や、経理担当者が少ない中小企業にとって、この業務負担軽減効果は大きなメリットとなります。
リコースなしファクタリングを利用すれば、売掛先の倒産リスクをファクタリング会社に移転できます。売掛先が倒産して代金を回収できなくなっても、利用企業に返済義務は発生しません。
これは実質的に、資金調達と信用保険を同時に実現する効果があります。特に、新規取引先や信用力に不安がある取引先との取引において、リスクヘッジの手段として有効です。
ビジネスの世界では、タイミングを逃すと二度と同じチャンスは訪れないことがあります。大口の受注機会、有利な条件での仕入れ、競合他社を出し抜く投資機会。これらはすべて、資金があるかどうかで実現可否が決まります。
ファクタリングの迅速性は、こうしたビジネスチャンスを逃さないための強力な武器となります。銀行融資では間に合わない場面でも、ファクタリングなら数日以内に資金を確保し、チャンスをものにすることができます。
ファクタリングの最大のデメリットは、手数料の高さです。2社間ファクタリングでは10%〜30%、3社間ファクタリングでも1%〜9%程度の手数料がかかります。
これを年利換算すると、非常に高い金利に相当します。例えば、60日サイトの売掛金を手数料15%で現金化した場合、年利換算では約90%にもなります。銀行融資の年利1%〜3%と比較すると、その高さは明らかです。
継続的に利用すれば、この手数料負担が利益を大きく圧迫します。年間売上3,000万円の企業が、毎月売掛金の半分をファクタリングで現金化した場合(月125万円×手数料15%)、年間の手数料負担は約225万円にもなります。
表面的な手数料以外にも、以下のようなコストが発生する可能性があります。
これらを合計すると、実質的な手数料率は表示より2%〜5%程度高くなることもあります。
3社間ファクタリングでは、売掛先に債権譲渡の通知を行うため、ファクタリング利用の事実が必ず知られます。これにより、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
2社間ファクタリングは原則として売掛先に知られませんが、以下の場合には通知される可能性があります。
契約書の「債権譲渡通知の条件」を必ず確認し、どのような場合に通知されるのかを把握しておく必要があります。
ファクタリングを一度利用すると、その便利さから継続利用してしまいがちです。しかし、これには大きな落とし穴があります。
ファクタリングは売掛金を前払いで受け取る仕組みです。今月の売掛金を今月中に現金化すれば、来月の資金繰りは必然的に厳しくなります。そのため、来月もファクタリングを利用することになり、これが繰り返されることで、ファクタリングなしでは資金繰りが回らない状態に陥ります。
この状態を「ファクタリング依存症」と呼びます。一度この状態になると、抜け出すことが非常に困難になります。
ファクタリング手数料が恒常的なコストとして固定化されると、利益率が大幅に低下します。
例えば、営業利益率10%の企業が、売上の50%を手数料15%でファクタリングした場合、売上に対して7.5%の手数料負担が発生します。これにより、実質的な営業利益率は2.5%にまで低下してしまいます。
多くのファクタリング契約には、以下のような制約が設けられています。
これらの条件により、「1回だけ利用するつもりだった」のに、長期間の利用を強いられることになります。途中解約には高額な違約金が発生することもあります。
すべての売掛金がファクタリングの対象となるわけではありません。以下のような制約がある場合が多いです。
ファクタリングは、売掛金の入金タイミングを早めるだけであり、売上や利益を増やすわけではありません。むしろ、手数料分だけキャッシュは減少します。
資金繰りの問題が構造的なもの(支出管理の甘さ、収益性の低さ、過剰投資など)である場合、ファクタリングは一時的な対症療法にすぎず、根本的な解決にはなりません。
手数料負担が大きいため、本来は設備投資や人材採用、マーケティングなどの成長投資に回すべき資金が、ファクタリング手数料に消えてしまうことになります。
これは中長期的な企業成長を阻害する要因となります。
ファクタリング業界には、残念ながら悪質な業者も存在します。以下のような手口に注意が必要です。
こうした業者と契約してしまうと、金銭的な被害だけでなく、事業継続そのものが危ぶまれる事態に陥る可能性があります。
| 項目 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 資金調達速度 | 最短即日、通常2〜3日で資金化 | 審査で断られる可能性もある |
| 審査基準 | 売掛先の信用力が中心 自社の決算が悪くても利用可能 |
売掛先の信用力が低いと利用不可 または高い手数料 |
| コスト | 担保不要、審査手数料が比較的安い | 手数料が非常に高い(10%〜30%) 継続利用で利益を圧迫 |
| 財務への影響 | 負債として計上されない 自己資本比率を維持 |
根本的な利益改善にはならない 手数料分だけキャッシュが減少 |
| 取引先との関係 | 2社間なら原則知られない | 3社間では必ず知られる 信用不安を与える可能性 |
| 業務負担 | 債権管理業務を委託できる(3社間) | 契約手続きや書類準備の手間 継続利用で事務負担増加 |
| 柔軟性 | 必要な時だけ利用できる | 最低利用期間の縛りがある場合も 依存状態になりやすい |
ファクタリングは、短期的な資金調達手段としては非常に有効ですが、万能ではありません。高い手数料、取引先との関係への影響、依存リスクといったデメリットも確実に存在します。
重要なのは、これらのメリット・デメリットを正確に理解した上で、自社の状況に照らして適切に判断することです。
ファクタリングを賢く活用するための5つの原則:
ファクタリングは、正しく理解し、適切に利用すれば、企業の資金繰りを改善する強力なツールとなります。しかし、安易に飛びつけば、かえって経営を圧迫する要因となりかねません。
メリットとデメリットの両面を冷静に評価し、自社にとって本当に必要かどうかを慎重に判断してください。
※本記事の内容は、「ファクタリング naviドットコムのファクタリング比較ポリシー」に基づいています。